子供の全てを甘く見ていた俺が悪いのだが……あんなに厄介な相手だとは思わなかった。

 初日は良かった。緊張していたのか、それともさすがにやりすぎたいたずらだったと思ったのか、そこまで騒がしいことも無かった。最も、『機関』が彼らを見ていたからかもしれないが。
 俺が館に来るまでの間、『アダムス機関』の担当員が子供たちの世話役を引き受けていたらしい。それならそのまま『機関』の人間に世話をさせればいいじゃないかと思うが、そこは色々な思惑が絡んでいるのだろう。俺はとやかく言える立場に無い。
 
 とにかく、子供たちの面倒をみていた担当員からあれこれを引継ぐと、彼らはそそくさと去っていった。そして館には俺と子供たちしかいなくなった。
 一人ずつ、記憶の中にある資料と同じかどうか確認する。右目の上に角のようなものがあるヘルガ、両腕が熊のようなスヴェン、イーニアス……は、見た目こそ普通の少年だが、死者を生き返らせる能力を持っている。この世界から消えてしまうらしいニーナ。毒が効かないヴィクトール。爬虫類のような目と尻尾を持ったマリー。そして、最初に俺に警告してくれていた、下半身が樹のニコラ。
 数日のうちに、俺は嫌というほど彼らの個性を目の当たりにした。

 まずニーナとイーニアスだ。なぜあんなに動き回れるのか、俺には理解できない。あの年頃の子供はみんなああなのか? 常にもぞもぞうぞうぞごそごそと動いては歌を歌うし笑うし……特に甲高い笑い声に慣れるまで、神経がささくれだって仕方なかった。だが、懐くのも一番早かった。今では四六時中俺の後ろをついて回り、きゃあきゃあ騒いでいる。
 スヴェンとヴィクトール、ヘルガもすぐに警戒心を解いた。スヴェンとは少し距離があるが、ヴィクトールとヘルガは率先して手伝ってくれる頼もしい存在になった。何より説明すればちゃんと聞いてくれる。それがどんなにありがたいことか、今ならよくわかると言うものだ。
 ニコラに至っては感謝しかない。彼がいるからこの生活が(辛うじてだが)成り立っていると言っても過言じゃないからだ。この館について、ほとんど全ての事を教えてくれた。
 意外だったのがマリーだ。彼女はつい最近まで、俺のことを信用しなかった……というか、大人全般を信じていなかった。だが彼女たちが置かれた立場を考えれば、それも仕方の無いことだろうと思う。態度こそそっけないが、ちゃんと他の子のことを世話してくれているようだ。
 
 とにかく無事に過ごすことを第一目標に、俺と子供たちの生活は始まった。あの子たちのことは極秘扱いらしいが……日記を書くなとは言われなかったから、これくらい記録してもいいだろう。

 今日はもう休もう。また明日も朝から騒がしくなるに決まっている。いつか日記を書くのを忘れてしまいそうだ。(現に俺はタバコを吸うのを忘れた。止めたんじゃないぞ!)

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