ようこそ、遠くからおいでなすったそうで……まぁ、この年寄りに何か御用で?
 そう……えぇ。ニーナのことはよく覚えていますよ。ここにいた期間は短かったですけどね。なぜですって? 記憶に残る子だったのは、そのまま手がかかる子だったという意味ですよ。ふふふ、あの子のイタズラに泣かされなかったシスターはいたかしら?
 それに、あの子は目が見えなかったんです。私たちの孤児院の玄関に捨てられていた時にはもう、目が見えない状態でした。それなのに子供たちの中で一番元気で、無茶をするのは決まってニーナでした。なんだか時々、この子本当は見えているんじゃないかってくらい行動的でしたよ。
 
 特にあの子は隠れることが大好きで。それはもう、天才と言ってよかったわ。見つけようと思っても絶対に出てこないから、ニーナが隠れたら皆一斉に孤児院に入ってね。お菓子を食べ始めるんですよ。そうしたらお菓子につられてひょっこり帰ってくる。そんな子でしたよ。
 ──そうそう。よくご存じですね。あの子はふっといなくなってしまうんです。酷いときには何日も……。
 私たちは最初驚いて、そりゃあもう必死に探し回りましたよ。悪い大人に掴まって、売られてしまうんじゃないかとね。あの子は可愛かったですから。
 でも3日後になって、あの子は帰ってきました。何事もなかったかのように。
 私たちはもう安堵のあまり立っていられなくなって、泣きながら座り込みました。ニーナはやっぱり甘いお菓子を食べながら、ぽつぽつ不思議な話をしてくれました。今まで、『違う世界にいた』──彼女はそう言うんですよ。
 そんな馬鹿な、ってシスターたちと私は顔を見合わせました。でもね、ニーナの洋服のポケットには確かに、みたこともない木の実が入っていたんです。気味が悪かったのですぐに捨てたのですが……。それからも彼女は時々いなくなりました。4歳になる頃には、ニーナがいなくても誰も驚かなくなっていました。酷いときには一週間も帰ってきませんでしたから。

 あの子が引き取られていった後も、しばらくはいつの間にか帰ってくるんじゃないかと思って、なんとなくそわそわしていました。結局あの子は戻ってきませんでしたが。
 引き取られていったお屋敷で酷い目に合わされていなければいいのだけど……できたらその家が、新しい彼女の居場所になれば良いのですけどね。あの子、優しい人と巡り会えたかしら。

Book Top  目次   back   next


inserted by FC2 system