『きよわなヴィクトール』
 あるところにきよわな男の子がいました。
 彼の名前はヴィクトール。でもその名前は、彼のおとうさんやおかあさんがつけたものではありませんでした。彼はうまれたときからずっと、恐ろしいばしょにとらわれていたのです。

 彼のことを、大人たちはたくさん研究しました。彼はどんなに強いどくを飲ませても平気でした。それに痛みもあまり感じませんでした。
 だけどそのかわり、彼はとても……なんというか、人と違った見た目をしていました。そのせいで、一部の大人たちからはバカにされていました。
 まだ名前のなかった彼に、悪い大人たちはたくさんのひどいことをしました。あんまり痛がらない彼を面白く思わなかった大人たちは、ある日彼に熱いお湯をかけました。それも研究のためだと言って。(書いていてイライラするわ!)
 そのうえ、大人たちは彼に『赤カエル』なんてひどいあだ名をつけました。
 でも、彼は怒りません。ちっとも痛くないから平気でした。(本当に?)
 そしておどろいたことに、悪い大人たちを怖がりもしませんでした。どんなにひどいことをされても、自分のお菓子をあげようとしたりしました。
 よくわからないけど、彼は大人たちが好きでした。というより、みんなが大好きでした。ほんと、バカなヴィクトール!

 彼があんまりにもやさしいので、何人かの大人たちは彼にやさしくなりました。何人かの大人は、嫌いなままでしたが。
 やさしい大人たちは、名前のなかった彼に、ヴィクトールという名前をつけてあげました。みんなはこっそり彼のことをヴィクトールとよびました。でもそれがばれると、みんなどこかへ連れていかれて、二度と戻ってきませんでした。
 そうしているうちに、せんそうが終わりました。彼の研究もおしまいです。
 家がなかった彼は、やさしい大人の人に連れられて、大きなおやしきにやってきました。そこで三人の王子と三人の姫に出会いました。(自分のことを姫っていうのは、なんだか恥ずかしいわね)
 そこできよわなヴィクトールは、ずっとみんなといっしょに楽しく遊んでくらしました……おわり。

 このお話をヴィクトールへ贈る マリーより

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