同志 ベルンハルトへ

 手紙をありがとう。君の決意の強さに、我々一同も感激している。
 俺のことなど気にしなくていい。むしろこんな俺を受け入れてくれた君の懐の深さに感じ入るばかりだ。

 俺は夢を見ている。
 戦い、国に勝利を捧げるという夢を。

 外では帰還兵たちが、まるで幽鬼の如く職や家を求めてさ迷い歩いている。俺のかつての仲間たちは皆死ぬか、体の一部を失くしながらかろうじて生きながらえている──しかしそんな姿で、生きていると言えるのだろうか?
 死んだほうがマシだ。あぁ、綺麗事を並べる必要はない。
 翻って考えれば、『生きていればいいことがある』など人間への冒涜である。崇高な使命があるからこそ人は生きていると言えるのだ……それを失って、獣のように肉体だけ生き永らえて何になる?
 例えこの夢が、国によってつくられた甘い夢だったとしても。
 俺には夢を追う権利があり、その為にあらゆるものを犠牲にする義務がある。既に俺の左足は、夢の為の犠牲となった。俺の最愛の弟もだ。

 それなのに、俺の夢はまだ、叶わない。

 冗談じゃない。このまま朽ち果てていくなんてことは許されない。俺は生きて、戦場で死ぬべきだ! 弟が、あれほど戦争を嫌がっていたセルジュが前線で華々しく散ったのに、俺は左足を失っただけで何もかもだめになった。唯一生き残った跡取りだから? 死んだら家が断絶する? クソくらえ‼
 俺は戦うために育てられた。戦場で敵を殺せと教えられてきた。それが全てだったはずなのに、一部の日和見主義共が和解案を推し進めたせいで、すべてがひっくり返ってしまった。
 地方では戦力が残っていた。南部の前線こそ疲弊していたが、東の海岸沿いにはまだ武器弾薬があった。俺たちはまだ戦えた。補給路も生きていた。それなのに、俺が地方に遠ざけられている間、卑怯者たちはこそこそと裏工作を進めていたという訳だ!
 だが諦めない。この国が、仲間が、志すら失って、ただ畜生のように生きるだけなど言語道断だ。

 何か使える一手は無いかとツテを辿って知ったのが、ナトゥールの研究所だった。噂には聞いたことがあったが、本当に異能者の研究を行っていたらしい。そして敗戦とともに解体された。
 対象者は忌々しいあの組織によって保護されているそうだ……俺と同じ匂いがする。
 力があっても、時の経過によって腐敗していく。燻り、生きた証も残せないまま消え去ることを、誰もが望んでいるのか? それは本当にこの国が望んだ未来なのか?
 少なくとも俺はそんな未来など、真っ平ごめんだ。恐らく彼らも同じ気持ちだろう。

 現状を憂いている同志たちも動き始めた。こちらもナトゥールの関係者を探し出して、なんとしてでも情報を得るつもりだ。いつまでも君たちばかりに苦労をかけられないからな。
 
 俺は熱が欲しい。
 生きているという実感を伴う、痛いほどの熱。
 それはこの国にかつて満ちていた、光だ。

 どんな手を使っても構わない。
 熱を。
 もっと熱を。

 君の作戦の成功を祈っている。
 いずれあの世で会おう。

                    コンラッドより

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