人々は立ち竦むフランクを遠巻きに眺めながら、小声で話し合っている。
 可哀想に。あんなに突然やってきたんじゃ、どうしようもないわよ。
 ここに住んでた人もまだ見つかってないんでしょう?まだ若いのに……運が悪かったんだわ。

 ひそひそと会話し合う内容を呆然と聞きながら、フランクはその場所を凝視し続ける。やがて人通りが絶え、海辺特有の湿った空気から小さな雨垂れが落ち始めても、動こうと言う気にはなれなかった。
 ──サラはどこかにいる。どこか避難できる場所か、もしくは俺の知らない誰かの家に身を寄せているに違いない。
 ようやく納得できる答えに行きつくと、フランクは凍えた体を動かしてその場を後にする。人気の絶えた往来を足早に歩きながら、サラの行きそうな場所を片っ端から思い浮かべていた。彼女は今頃は安全な所にいて、俺の帰りを待っているはずだと、心の底から信じながら。

 数日経っても、数週間経っても、サラの情報は一向に得られないまま時間ばかりが過ぎていく。
 周りに目を向けると、自分と似たような境遇の人々が目に入った。親と、子と、恋人と、自分の体の一部と、別れてしまって出会えない人々が町に溢れている。虚ろな目で面影を探し求める人たちを見遣りながら、フランクはサラからの手紙を読み返した。
 サラには身寄りがなかったが、彼女のことなら自分が一番よく覚えている。朝焼けに染まる海辺を散歩したこと。得意料理について色々聞かせてくれた時の表情。暖かいベッドの中で語り合ったこれからの話……。
 だが、子供は?手紙にたった一言だけ示唆されている我が子の記憶も思い出も存在しない。性別もなにもかもわからない。そもそも──〝子供はこの世にいるのだろうか?〟
 いや。いや。何を考えているんだ、俺は。
 サラに会えば、全て語って聞かせてくれるはずだ。そうすれば独りにしてしまったことを詫び、子供の名前を一緒に考えることだってできる。思い出ならこれから嫌というほど作ればいい。
 彼女に会いたい。
 子供に会いたい。
 会って、君は確かにこの世界に存在しているのだと教えてあげたい。
 それなのに、フランクはただ一人、破壊された町に取り残されている。
 

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